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神戸家庭裁判所伊丹支部 昭和59年(家)707号 審判

申立人 大田玲子

相手方 小畑一郎 外5名

被相続人 大田太郎

主文

1  申立人の寄与分を1612万3770円と定める。

2  被相続人大田太郎の遺産を次のとおり分割する。

(一)  別紙遺産目録内容欄第1の1、2記載の各不動産、同第2の3記載の預金、同第3記載の電話加入権及び同第4の1ないし6記載の各動産は申立人の取得とする。

(二)  同第1の3記載の不動産及び同第2の1、2記載の各預金等は相手方全員の共有(相手方小畑一郎、同小畑二郎、同小畑三郎及び同中本恵子の持分各12分の1、相手方川木浩子及び同白田麻子の持分各3分の1)による取得とする。

(三)  申立人は、相手方小畑一郎、同小畑二郎、同小畑三郎及び同中本恵子に対し各15万4040円、相手方川木浩子及び同白田麻子に対し各61万6161円及び以上の各金員に対する本審判確定の日の翌日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。

3  (一) 本件手続費用中鑑定人○○○○に支払つた鑑定費用25万円は申立人がそのうち20万2000円を、相手方小畑一郎、同小畑二郎、同小畑三郎及び中本恵子がそのうち各4000円を、相手方川木浩子及び同白田麻子がそのうち各1万6000円をそれぞれ負担することとし、相手方らは申立人に対し上記各負担金を支払え。

(二) その余の手続費用は各自の負担とする。

理由

本件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断は、以下のとおりである。

1  相続の開始、相続人及びその法定相続分

(一)  被相続人大田太郎は、昭和59年2月4日死亡し、その相続が開始した。

(二)  被相続人の遺産につき相続権を有する者は、被相続人の配偶者である申立人、被相続人の姉小畑聖子(昭和37年5月26日死亡)の代襲相続人である相手方小畑一郎、同小畑二郎、同小畑三郎及び同中本恵子(以上の4名を、以下「相手方小畑一郎ら4名」という。)、被相続人の姉である相手方川木浩子並びに被相続人の妹である相手方白田麻子の7名であり、その法定相続分は、申立人が4分の3、相手方小畑一郎ら4名が各48分の1、相手方川木浩子及び同白田麻子が各12分の1である。

2  遺産の範囲及びその評価額

(一)  本件遺産分割の対象となる被相続人の遺産は、別紙遺産目録内容欄記載の各財産のみであり、その相続開始時及び分割時における各評価額は同目録相続開始時価額欄及び分割時価額欄に記載のとおりであり、本件遺産全部の相続開始時における価額は4837万1309円、その分割時における価額は5009万6900円である。

(二)  もつとも、被相続人の死亡時には、被相続人の遺産としてほかに○○信託銀行株式会社○○支店に対する貸付信託金300万円が存在していたが、これは、被相続人死亡の直後ころその葬儀の執行及び負債の整理に当つた申立人により解約されたうえ全額被相続人の葬儀費用及び負債の支払に当てられたから、本件遺産分割の対象から除外するのが相当である。

3  遺産の管理状況

本件遺産のうち別紙遺産目録内容欄第1の2記載の建物及び同第1の1記載の土地は、被相続人及び申立人が住居に使用していた建物及びその敷地であり、被相続人死亡後は申立人が引続きこれを同一の用途に使用している。同第1の3記載の土地は、被相続人が別荘用地として購入した土地であるが、その後利用されたことはなく、現況山林のまま現在に至つている。同第2の1ないし3記載の各預金等の証書ないし通帳は申立人の保管するところであるが、同第2の1記載の信託金の利息は半期毎に同第2の2記載の預金口座に振込入金されている。同第3記載の電話加入権にかかる電話及び同第4の1ないし6記載の各動産は、上記建物内に設置ないし存置されて被相続人及び申立人の使用に供されていたものであるが、被相続人死亡後は申立人が引続きこれを使用している。

4  申立人の寄与分

当裁判所の認定する以下の各事実によれば、申立人は被相続人の本件遺産の形成につき特別の寄与があつたものというべきであり、その寄与の額は、本件遺産の3分の1相当額、すなわち1612万3770円とするのが相当である。

(一)  被相続人と申立人は、昭和33年4月2日婚姻したものであるが、当時両名ともこれといつた財産はなく、中学校教諭をしていた被相続人の給料と申立人の持参金10万円をもつて4畳半1間の賃借アパートで新婚生活を始めた。

(二)  申立人は、婚姻当初は主婦として家事に専念していたが、その後夫婦の念願であつた自宅の購入資金を得る目的で働きに出ることになり、昭和35年1月から昭和37年6月までは○○証券株式会社○○支店に、昭和38年5月から昭和44年7月までは○○工務店に、同年8月から昭和47年12月までは○○広告社に、昭和48年9月から昭和49年3月までは株式会社○○○○作業所にそれぞれ勤務し、その間これらの勤務先から被相続人の収入の3分の1程度から2分の1程度の収入を得た。そして、昭和49年4月からは再び主婦として家事に専念するようになり、現在に至つている。

(三)  被相続人は、申立人の上記協力の下に、昭和41年6月申立人の弟である○○○○から別紙遺産目録内容欄第1の1記載の土地の約半分を買受けたうえ、昭和42年5月同土地上に同第1の2記載の建物(但し、増築前のもの)を建築し、昭和43年2月上記○○○○から上記土地の残り半分を買受け、昭和49年及び昭和57年の2回にわたつて上記建物を増築して現在の建物にした。そして、昭和53年5月別荘用地として売出された同第1の3記載の土地を購入したほか、別紙遺産目録内容欄記載のその余の各財産を取得した。しかし、申立人の方は、自己の名義をもつてこれといつた財産を取得していない。

(四)  なお、被相続人は、昭和56年3月31日中学校教諭の職を依願退職し、その際退職金として2219万円余の支給を受けたが、現実の受領額は右金額から共済償還金(共済組合からの借入金に対する返済金)を控除した1532万円余であつた。そして、被相続人は、右金員のうち約1000万円を上記(三)記載の建物増築費用に、300万円を上記2の(二)記載の貸付信託金に、200万円を別紙遺産目録内容欄第2の1記載の信託金に、その余を生活費にそれぞれ使用した。

5  各相続人の具体的相続分

(一)  本件においては、いずれの相続人についても特別受益は認められないから、上記1の(二)及び同4に基づいて各相続人の具体的相続分率を求めれば、以下のとおりである。

(1)  申立人6分の5

計算式(1-(1/3))×(3/4)+(1/3) = 5/6

(2)  相手方小畑一郎ら4名各72分の1

計算式各(1-(1/3))×(1/4)×(1/3)×(1/4) = 1/72

(3)  相手方川木浩子及び同白田麻子各18分の1

計算式各(1-(1/3))×(1/4)×(1/3) = 1/18

(二)  本件遺産全部の分割時における価額は上記2の(一)記載のとおり5009万6900円であるから、これを各相続人の上記(一)記載の具体的相続分率に応じて配分すると以下のとおりとなる。

(1)  申立人 4174万7417円

計算式5009万6900円×(5/6) = 4174万7417円

(2)  相手方小畑一郎ら4名各69万5790円

計算式 各5009万6900円×(1/72) = 69万5790円

(3)  相手方川木浩子及び白田麻子各278万3161円

計算式 各5009万6900円×(1/18) = 278万3161円

6  各相続人の遺産分割に関する意見

(一)  申立人

本件遺産分割につき2分の1の寄与分があるとしたうえ、本件遺産のうち別紙遺産目録内容欄第1の3記載の土地及び同第2の1、2記載の各預貯金等を相手方らに取得させ、その余全部を自己が取得することを希望しているが、仮に右分割方法を採用することにより相手方らの取得額に不足を生じる場合には相手方らに対し清算金を支払う用意がある旨を表明している。

(二)  相手方小畑一郎及び同小畑三郎

申立人の寄与分は認め難いとし、自己の法定相続分相当額を金銭で取得することを希望している。

(三)  相手方小畑二郎、同中本恵子、同川木浩子及び同白田麻子

申立人主張の寄与分についても特に異存はなく、本件遺産分割に関しても積極的に要求する気持はないが、自己の相続分が認められる場合にはこれを金銭で取得することを希望している。

7  遺産の分割方法

叙上認定の本件遺産に属する各財産の種類及び使用状況等、各相続人の遺産分割に関する意見並びに本件記録に顕われた一切の事情を斟酌すれば、本件遺産は以下のとおり分割するのが相当である。

(一)  別紙遺産目録内容欄第1の1、2記載の各不動産、同第2の3記載の預金、同第3記載の電話加入権及び同第4の1ないし6記載の各動産(以上価額合計4359万5900円)は申立人の取得とする。

(二)  同第1の3記載の不動産及び同第2の1、2記載の各預金等(以上価額合計650万1000円)は相手方全員の共有(相手方小畑一郎ら4名の持分各12分の1、相手方川木浩子及び同白田麻子の持分各3分の1)による取得とする(ちなみに、これによる相手方小畑一郎ら4名の取得額は各54万1750円、相手方川木浩子及び白田麻子の取得額は各216万7000円となる。)。

(三)  上記(一)、(二)による取得額の過不足の清算として、申立人は相手方小畑一郎ら4名に対し各15万4040円、相手方川木浩子及び同白田麻子に対し各61万6161円及び以上の各金員に対する本審判確定の日の翌日から支払ずみまで民事法定利率年5分の割合による利息をそれぞれ支払う。

8  結語

よつて、被相続人大田太郎の遺産について、申立人の寄与分を主文1項のとおり定めるとともに、各当事者の分割取得分等を主文2項のとおり定め、本件手続費用につき、家事審判法7条により非訟事件手続法27条、29条、民事訴訟法93条を準用して、そのうち鑑定人○○○○に支払つた鑑定費用25万円については、各当事者が本件遺産分割により受けた利益の程度を考慮して、これを主文3項の(一)のとおり各当事者の負担を定めてその償還を命じ、その余の手続費用は各自の負担とし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 松尾政行)

別紙遺産目録〈省略〉

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